本記事は、株式会社LDFとMakeblock Japan株式会社の共催のもと行われた、情報通信総合研究所の平井聡一郎先生と埼玉県の特別支援学校の音楽科教諭の苅田先生による対談の内容をまとめたものです。なお、対談動画はこちらよりご覧いただけます。

1. 教科学習における教材

 苅田先生をはじめ多くの先生方が、教育用レーザーカッター「Laserbox」を活用し、数学や音楽など様々な教科の教材を製作されました。教材の製作にあたり、アイデアや工夫されたことについて紹介していただきました。

・音楽の教材

 音楽では「1小節に何個の音符が入るか」を視覚的に表す教材を作成しました。音符について考える際、分数の概念を知っていなければ理解が難しいところもあります。それをパズルのように組み替えながら視覚的に理解を助ける教材をLaserboxで作成しました。

・数学の教材

 数学では、分数の立式を助ける教材を作成しました。数字を紙に書いて計算を考えることが難しい生徒に対して、視覚的な具体物を提示してあげることにより、数字のまとまりや移動を考えやすくしながら、理解の手助けをしています。

2. 特別支援としての教材

 特別支援学校では、身体的・知的に特別な支援を必要とする生徒たちに対して、生徒一人一人の教育的ニーズにあった教育を行います。そんな中で、Laserboxを使用して作成した教材の特徴や工夫についてご紹介いただきました。

・○×ゲーム

 誰でも一度は体験したことがあるであろう○×ゲームですが、実は紙とペンが使えない生徒は遊ぶことができません。しかし、そんな生徒でも木材のピースがあれば、ピースを動かすだけで遊ぶことができます。課題を解決し、誰でもゲームを遊ぶことのできるように工夫して制作しました。

・型はめ

 型はめは、見て思い通りの場所に手を動かすという「目と手の協応動作」の学習にとても重要です。生徒によっては、たくさん型が並んでいると難しく見えてしまうため、型が一つだけの方が良かったりします。ちょうど良い型の大きさも生徒によってそれぞれ異なります。そんな中で、Laserboxを用いて、型を個別最適に作成することができるのはとても重要なことです。ピッタリと型にはまることが制作において重要ですが、この点においても、レーザーによる加工は精密なのでとても適しています。

・からころツリー

 これは様々な玉を上から転がして、目で追ったり、木材と衝突する音の違いを聞いたりすることのできる作品です。これを構成するピースはとても単純なもので、生徒が自分たちで組み立てをすることもできます。生徒が組み立てに関わることができる点や、塗装もしながらオリジナルの作品を作成できる点がとても良いと感じています。

3. 美術における制作

 特に美術の時間には、生徒たち自身もLaserboxを使用して作品を制作しています。生徒が作品を制作する過程でレーザーカッターを使用するメリットや意義について、作品とともに紹介していただきました。

・生徒作品 テーマ:ゲルニカ

 各生徒がゲルニカの一部を模写して作品を作ることを行いました。木材だけでなくアクリルも取り入れて組み合わせながら作品を制作しています。

・生徒作品 テーマ:自分らしさ

 生徒が、思い思いに自分らしさを表現する作品を制作しました。スタンドをつけたりしながら、Laserboxによる彫刻や木材だとどのようにカットされ描かれるのかといった過程も楽しみながら制作していました。

・生徒作品 猫

 猫の模写をLaserboxで彫刻して作品制作をしました。初めは彫刻が薄くなってしまったりしましたが、影の書き方や濃さなど試行錯誤しながら作成していました。

 特別支援学校では肢体不自由な生徒もいるため、彫刻をするにしても彫刻刀などの必要なツールを扱うことが難しかったり、安全面を考慮すると人員が必要になってしまうなど課題が多くあります。そのため、主にできることは紙とペンで絵を描くことということが多くなりがちです。しかし、Laserboxを使用することで、生徒たちは難しいことや危険を回避して作品を制作することができます。絵だけではなく、自分が様々なものを作成することができることは、生徒たちにとって大きな経験と喜びになります。

4. レーザーカッターを教育に取り入れる意義

 教育現場でLaserboxを導入して良かったと感じることについて、苅田先生と平井先生の対談内容をまとめてご紹介します。

苅田先生

 特別支援学校という場においては、生徒に合わせた教材を短時間で作成することができるということが大きいと思います。今までは、教材のアイデアがあっても作成する時間や技術がないことが課題でしたが、Laserbox使用することで、その課題が解決しました。3Dプリンターはすでに導入されていますが、3Dデザインなどの専門的な知識が必要であったり、何時間もかけたのに完成品が崩れてしまったということがありました。一方で、Laserboxは手軽に使用できるので、教員や生徒にっての使いやすさという面でも優れていると思います。教材作成のプロジェクトも、初めは数人の教員から始まったのが、今では11人もの先生方が使われています。また、Laserboxを使用して作成できる教材のアイデアを提案してくださる方もたくさん増えました。

平井先生

 苅田先生がおっしゃるように、教員にとっては、デザインやデジタル機器の使用が苦手な方であっても簡単に使用でき、しかも短時間で気軽に製作できるということが重要であると思います。また、今回のように授業の中で生徒がLaserboxを使えるということも大切です。なぜなら、生徒は、自分のイメージしたものを実際に創り形にすることができるという体験によって、「ツールを使いこなすスキルが問題ではなく、アイデアさえあれば作れる。テクノロジーの力を借りることで自分たちは何でもできる。」という自信を持つことができるからです。それは子どもたちの可能性を広げることに繋がると思います。

 このように、Laserboxには2つの大きな意義があると思います。一つは、スペシャルな学び(個別最適化された学び)に対応する教材教具を創るためのツールとしての意義です。もう一つは、児童生徒の想いを実現するツールとしての意義です。私は現代の教育現場には必要なものだと考えています。

5. まとめ

 今回は、特別支援学校におけるLaserboxの活用事例を通して、教育現場におけるレーザーカッターの活用の意義を考えました。教員にとっては、生徒の多様な教育ニーズに合わせたオリジナル教材を、短時間で簡単に作成することができるという点で意義があり、個別最適化された学びを実現しています。また、生徒が、自分がイメージしたものを実際に創り、形にするという体験を提供できるという点に意義があり、創造的な学びの実現に繋がっています。 

その他にも、学校現場におけるLaserboxの導入事例は多くございます。教育現場でのレーザーカッターの導入にご関心のある方は、ぜひ jp@makeblock.com までご連絡ください。